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2013年02月28日

カムイたちの黄昏、その11



明日出張だというのに、先ほどまでヨメはんと居酒屋で飲んでいた。

酒が廻ると脳の回転が増すタイプらしい。

途中まで書きかけのファンタジーをキリまで進めることができた。

明日は、出張。

ブログ書けないというか書くことしない。

これは明日の分です。

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(うふあがりの島・同時刻)

タケルとカナシが、北の方角に向かってからどれくらいの時が経ったのであろうか?

実に、洞窟の外の時間で3年余りの年月が経っていた。

地中深く朽ちた龍の胎内では、時の刻みが極端に遅かったのである。

“光”という因子と“黒い穴”というすべてを圧縮して引きずりこむ異次元へ開いた空間の綻(ほころ)びの鬩(せめ)ぎ合いは、島の時間と明らかに違っていたのであった。

二人は“神の時間”にいたのである。

ウフーソ・ヒルコは、タケルとカナシの運命(さだめ)をもうあきらめていた。

(私が出来れば、とうの昔にどうにかしていたわ)。

ウフーソ・ヒルコにとって、同じ季節や時が移ろう時間が過ぎていった。

いつものことであるが、この島へはミーニシ(北風)が吹き始める前にフェー(みなみ)から嵐がやってくる。

すさまじい風と雨が島の岸壁に押し寄せ、波は幕の上を超える。

ドーナツの穴に当たる島の中央部は、直撃と言わないまでも風が躍る。

このたびの嵐は、島でもあまり経験したこともない大きな嵐であった。

ウフーソ・ヒルコはそのとき、この大嵐を避けていつものように御嶽の見える石灰岩の割れ目に避難していた。

“神から見離された神“蝙蝠(こうもり)の付喪神になったウフーソ・ヒルコ。

彼女が見たものは嵐の中、天空より雲をかき分け幾条もの雷(いかずち)が北の森の一角に突き刺さり、地中深く地鳴りやごう音が轟(とどろ)き、島全体がふるえるように揺れる様(さま)であった。

タケルとカナシが向かった北の森が輝きだした。

初めは、森の中に蛍のような明かりが灯るような感じが森全体を光の中に浮かばせ、やがては天へと光が1本の線となり昇って行った。

金色(こんじき)の輝きに包まれた龍が、森の中から姿を現した。

雷(いかずち)は、幾重にも枝分かれしながらこの龍へと幾条の光となって落ちていく。

龍は天空からの雷(いかずち)を身にまとうように引き寄せ、黄金色の光の帯に変化していった。

喜びに身もだえするように雷を浴びた龍は、一瞬縮こまったかと思うと、雷が降り注いでくる方向へと光の矢となって昇って行った。

島が昼間のように明るくなった。

やがて嘘のように風がやんだ。

満天の星が瞬く空がひろがり夜が戻ってきた。

風も完全にやんだ。

嵐の目に入ったようだ。

上空高く、光の尾を引きずりながら“龍”は髙く高く遠ざかっていった。

風が再び反対側の方角から吹き始めた。

雷は徐々に弱まっていった。

嵐は一晩中吹き荒れ、やがて、夜が明けた。

(龍の胎内・同時刻)

龍と光の精インガンダルマを見送ったタケルは、十束剣(とつかのつるぎ)の鞘を、岩から抜き取り、インガンダルマ達が残して行ったすべてを通して透明になる衣にくるみ背にくくりつけた。

鞘を帯びていることすら見えなくなった。

タケルは、自分の持つ草薙の剣へ身を賭けて己の魂(ちむ)を投じたカナシを元の肉体へ戻そうと湖底だった場所からその湖畔の後へと地中を昇って行った。

(カナシ。あなたを元の体に戻さなくてはね。)

やがてタケルが其処で目にしたものは、カナシの衣装にくるまれ白骨(しらほね)と化したカナシの遺骸であった。

地底湖の湖畔でさえ、湖底より時は遥かに早く過ぎ去っていたのである。

タケルは、急いで歩み寄った。

そこには、生きていたカナシがあった。

生きているカナシはそこにいない。

“生”が失われるということ。

カナシには、もう帰ってくる肉体がない。

言いようのない、哀しみがタケルを襲った。

なぜ?

“このことまでも。宿命(さだめ)なのだろうか?“

時とは心の世界では長くも短くも感じられ超えることさえできるのに、生身は時を超えることができない。

草薙の剣の柄頭のカナシの勾玉がふるえながら、光る。

“タケル、悲しまないで。私はあなたとともにある。”

“あのつきぬ浜の夜を思い出して。”

“あなたはわたしに詠(うた)った、”

川の水はやがて海に注いでとどまる、そのようにやがて私の心は貴女の心に染まる・・・・と”

“わたしは、あなたに応えた”

月と太陽はいつも仲良く同じ道を通る。貴方の心も、だからいつも私一筋であってほしい

“わたしは、わたしの心に従ったまで。”

“つきぬ浜での誓いをわすれないで。”

カナシの魂(ちむ)が言葉ではなく心(くくる)となって伝わってくる。

タケルはただカナシの遺骸を抱きしめ泣きじゃくるばかりであった。


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