2013年01月31日
カムイたちの黄昏その2
2013/01/30
筋が見えてきたので、何とかなるのかな?
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1:創世の書
「タケルとカナシの物語」
“波の音“”風の音“を聴こうとタケルが浜辺に立つと、どこからともなく歌声が聞こえてくる。
もう夕暮れが迫ってきた。
翠(みどり)の海が紅(くれない)に染まるころ、遠くに若い男女が歌で相聞きあう声が響く。
トゥバラーマと呼ばれている“相聞歌”だ。
「月(つくぃ)とぅ太陽(てぃだ)とぅや、 ゆぬ道(みつぃ)通りょうる」
感情を押さえた、それでいて心に滲み通るような歌声。
と、その声に応えるように、別の方角から、 「ツィンダーサーヨー ツィンダーサー」
2つの声が、語り合っているかのように聞こえ・・・・。
「かぬしゃま心(くくる)ん 一道(ぴとぅみつぃ)ありたぼり」
「マクトゥニ ツィンダーサー」
「んぞーしーぬ かぬーしゃーまーよ」
ヤマトゥのオオキミの命により、エミシと呼ばれる民を恭順させるために、海路で北へ向かう途中のことであった。
静かの瀬戸の海流が突如逆巻き、風のまにまの枯葉のように外洋へ外洋へと船は導かれていったのだった。
帯びていた剣(つるぎ)の霊力に海底の龍が激しく反応したのであろう。
この地で言うミーニシと呼ばれる北風に吹かれ、外海に流された舟は、幅数百キロの黒い潮の流れに逆らうように南へ南へと幾十日も流され漂流した挙句、大きな嵐に巻き込まれてしまった。
従った配下は、次々と力尽きていった。
独りになったタケルに嵐は容赦なかった。
タケルは、1振りの剣(つるぎ)を腰に帯びていた。
神の代(かみのよ)の征伐に天照大神の弟スサノオが向かったとき、ヒィカワと呼ばれる川を氾濫させていた八個の頭、八本の尾をもつ大蛇(おろち)を退治したとき、体内から取り出された剣(つるぎ)。
天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)。
タケルが、サガミの国でだまし討ちにあい野の四方から火を放たれた時、その剣(つるぎ)で辺りを払い火を放ち直したところ、火は放った相手へと逆襲したという草薙の剣(つるぎ)だ。
大いなる力が宿った剣(つるぎ)は、持ち主を選ぶ剣(つるぎ)でもあった。
ふさわしくないものが不用意にそれを手にしたり、切られた者は、その霊力に打たれ骨まで黒こげになり、のたうち死ぬ。
炎に焼かれ黒こげになるのではない。
そのものが持つ「神の灯」の所為なのだ。(後世、ウラン鉱石と呼ばれるもので、それは造られていたのである。)
その剣(つるぎ)をかざし、タケルは自らを帆柱に括(くく)り付け嵐に向かって叫んだ。
「わが身を砕くなら、砕け!剣の命果てるまでわが命とともに私は闘う・・・・。」
ひときわ大きな波が、タケルの頭上からおおいかぶさってきた。
次第に、意識が遠のいていく。
波にのまれたタケルの顔を、光に包まれた不思議な女神が覗き込んでいる姿を・・・すぐそばで見ているタケルがいた。
そこは、ティダアマテラスが支配するニライカナイと天照大神が支配する高天原の境界であった。
女神は、左右に白い竜と黄色の龍を従えていた。
そこまで見届けてタケルの意識は、・・・途絶えた。
気が付いたときは、ヒヌカンの家であった。
琉の島と言われる島に流れ着いたのだ。
タケルは、オオキミの命により再び北へと向かわねばならなかった。
オオキミの本当の命は、エミシの頭目タンドシリ・ピリカの手にある「布流剣(ふるのつるぎ)」を再びに葦原中国(あしはらなかつくに)に奪い返さなければいけなかったのだ。
葦原中国(あしはらなかつくに)とは、天照大神の住む高天原と黄泉の国の中間に位置するヤマトゥそのものの世界なのである。
古来、3本の剣によって葦原中国(あしはらなかつくに)の平安は保たれていた。
「布流剣(ふるのつるぎ)」とは、イザナギの妻イザナミが最後に産み落とした火神カグツチが母を焼き殺したとき、怒り嘆き悲しんだイザナギガ怒りにまかせて切り殺したとき、剣に付着した血から化生(けしょう)した神建御雷神(たけみかずちのかみ)が持っていた妖霊剣の名前である。
建御雷神(たけみかずちのかみ)は、高天原と黄泉の国を取り持つ葦原中国(あしはらなかつくに)を最初に平定した化生神になるのである。
その剣は、北への備えとして、常陸カジマの森の社に祭られていた。
その剣が、こともあろうにエミシの手に落ちたのである。
失われた剣(つるぎ)のせいで、ヤマトゥの地が今、荒ぶっている。
タケルが持つ草薙の剣(つるぎ)こそ、唯一、布流剣(ふるのつるぎ)と互角に闘えるものであったのだ。
もう1剣、これらに互するとされるのが、十握剣(とつかのつるぎ)である。
十握剣(とつかのつるぎ)とは、イザナミが妻イザナギを焼き殺した我が子「火神カグツチ」を切って捨てた剣(つるぎ)そのものである。
スサノオの大蛇(おろち)退治に使われた十握剣(とつかのつるぎ)の行方も、ようとして行方がわからないままであった。
エミシへと向かわなければ・・・・。
しかし、黒い潮の流れは、秋から冬の間、強い風を伴い、決してタケルの還りたい方角へは寄せ付けなかったのだ。
「うりずん(陽春)」の季節。
風が吹き返す季節になった。
タケルは毎日浜辺にでて、風を測った。
“クチヌカジ”と呼ばれる東風を待った。
この風なら、黒い潮の流れに乗って北へと向かえる。
(もう何日かしたら、風をつかまえられる)
「ねぇ、いくの?」
振り返ると、世話になっているヒヌカンの一人娘カナシがいつの間にかクバの木の傍にたたずんでいた。
長い濡れたような黒髪と憂いを含んだような大きな瞳の少女だ。
「そろそろだな。」
「私を連れて逃げて」
「ついてくるか?」
一陣の風が耳元を、音を立てて通り過ぎる。
まるで、泣いているように・・・・。
ヒヌカンの妻トートームには、助けられた時「お前を助けてやるけれど、娘のカナシには心を向けないように」と言われていた。
島の男に比べ長身で、クルクルと巻き髪を両総(りょうふさ)にしたタケルは明らかに異国の人であった。
初め、遠巻きにしていた子供たちもが、1歩1歩と物珍しさも手伝い近づいていき親しくなっていった。
子供たちの後は、女たちであった。
カナシと初めて言葉を交わしたのは、モーアシビーの夜だった
Posted by yo1 at 18:27│Comments(0)
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