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2013年02月01日

カムイたちの黄昏3





物語は、まだ始まったばかりです。

どこまで書きつづけていけるのか?

ブログの新しい機能を使い、続けて読むこともできるようにしてみました。

少なくとも、カムイたちの黄昏2の中に出てくる、行方不明の3本目の剣”十握の剣”(とつかのつるぎ)が東の果ての絶海の孤島、すなわちティダアマテラスが治める南の領域にあったことから始まる物語にします。

タケルとカナシは”親神”が産みだした3人姉妹が治める北と中つ国と南の国の平穏を取り戻す為に、3本の剣を束ねる、つまり”収束”の旅に旅立つ序章になる予定です。



2:創世の書

「タケルとカナシの物語」

ーモーアシビーの夜へとー

タケルの体力が回復するにつれて、彼の周りには笑い声や歓声が絶えなくなった。

嵐が過ぎ去った朝、波に打ち上げられたタケルを介抱したのは、長(おさ)のヒヌカンであった。

この村には、言い伝えがあった。

ある日、海のかなたニライカナイから皇子の一人がやって来る。

その皇子は、1本の剣(つるぎ)を携え、纏った袋の中に赤い碗や五穀の種、火を作る石、マータン(勾玉)と言われる石の首飾りを持っている。

それらすべては、ティダ(太陽)が民に遣わしたものであり大いに重畳(大変喜ばしい)なことであるが、引き換えに大災厄も招くこととなる。

そして、その皇子に選ばれし娘は、その命と引き換えに皇子の“天昇り”を手助けすることになるという言い伝えであった。

ヒヌカンの始祖は、琉の島に初めて降り立ったアマミキョ(女神)とシネリキョ(男神)が土の中から造りだした最初の島人の一人と言われていた。

言い伝え通りの若者が、剣を携え息絶え絶えに目の前にいる。

ヒヌカンの背後から彼の肩に手を当てて覗き込んでいた妻のトートームは、夫の耳元でささやいた。

「このまま、この若者を海に流しましょう。これは言い伝えのニライからのの皇子ではなく、きっと私たちに禍(わざわい)を招く異国人よ!」

「助けたら、仲間を大勢つれてきて私たちの村は大変なことになるわ。」

ヒヌカンは、暫くの間目を閉じた。

そして、自分の中の神に、問いかけた。

彼にとって神とは、彼の血の中に蓄えられた先祖の記憶なのである。

無の中に・・・、無音の中に・・・意識が入っていく。

閉じた瞼(まぶた)の先に、紫や赤の雲のようなものが遠く近く渦巻き始めると突然視界が拓けた。

光り輝くものが彼を見据え、音もなく声を発する。

音もなく・・・・「助けよ」。

彼には、そう聞こえた。

ヒヌカンは、妻の言葉に応えることなく若者を彼等の住まいの苫屋(とまや)へと背負って行った。

ヒヌカンがぼそりと妻のトートームに言った。

「この若者が出ていくまで、娘のカナシを山向こうのお前の里にあずけておけ。」

トートームの母性が直感の警笛を鳴らしていた。

「しばらくの間、私の母親のクスマヤーの面倒を見ておくれ」

カナシは、突然母のトートームに言われ山向こうのウンナの集落へとむかった。

若者が家へ担ぎ込まれたときであった。

カナシが首からさげていた「タカラガイ」の首飾りが、その身を震わせたのだ。

ただわけもなく、心がふるえとてつもない不安のような気持ちがカナシを包んだ。

(海から来たあの若者はどんなひとなんだろう?)

カナシにとって、こんなことは初めてであった。

何か、身を裂かれるような想いがよぎったが、カジマヤー(97歳)近い祖母のクスマヤーの世話に向かった。

タケルは、順調に回復した。

偉丈夫のタケルを、女たちが見逃すはずがない。

男女が集い、掛け合いの歌を詠みながら互いの気持ちを確かめあう”モーアシビー”がちかづいていた。

ヒヌカンとトートームは”モーアシビー”に行くことをタケルに勧めた。

(・・・カナシには逢わすまい)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カナシが祖母クスマヤーの家に行くと、世話をしている甥っ子のガチマヤーが迎えに出てくれた。

「カナシよ、よう来てくれた。」

「クスマヤーおばぁさん、母の言い付けでおばぁさんのお世話をしに来ましたよ」

クスマヤーは、神降ろしの人である。
それは代々受け継がれてきた能力で、先祖だけでなく草や岩や万物に宿る地の神の声、天上の神々の声を聴くことができるのである。

多くの人が、彼女の口寄せを頼りにやって来た。

カナシにもその血が流れているのだ。

カナシも耳を澄ませれば、“声”が聴こえるのである。

すっかり縮んでしまい歩けなくなった祖母のクスマヤーは、丸い大きな紅い布団の様なものに納まり、紅と黄色の歯切れの様なものにくるまりガチマヤーに抱えられながら訪い人の前に姿をあらわす。

片手に、風車を持ち宙にかざすと、風もないのに風車が廻りだす。

廻る風車はやがて、彼女の意識を六道の輪廻の世界へと引き込んでいく。

彼女の神降ろしは評判であった。

タケルが体力を回復するのに合わせるように、ひと月・ふた月と祖母の世話をする日々が続いた。

月齢が十三夜から十五夜へと満ちる夕暮れのことであった。

「カナシ、ここへおいで。」

「その昔、大地を作った私たちの親神さまは、3人姉妹を産み出した。

「3人の姫たちははそれぞれ手分けして、三つの人世の地を黒い潮の海流れに沿って造ったのじゃ」。

「わしらの“祖”はその3人姉妹の真ん中の姫君、ティダアマテラスがニライカナイから来てお造りになった南の世界なのじゃ。」

「其処に、私たちの様な人を其々(それぞれ)お造りになられたのじゃ。」

「永久(とわ)に輝き続けるティダの世界と変幻万化常に化相する我らが住む世界、陰と影が支配する寂滅の黄泉・根の国の世界。」

「これらが、程よく調和した時にこの世界は平穏が保たれるのじゃ。」

「私の一族は、ティダアマテラスの女神の一族に使えたもの。私も間もなく、そのもとへ行かねばならぬ。」

クスマヤーおばぁさんは、カナシの手を取った。

そして、おばぁさんの胸元から見事なタカラガイの首飾りと「太陽の巻き貝」と呼ばれるゴホウラ貝の腕輪1対をとりだした。

「これは、おばあさんのおばあさんのそのまたおばあさんと気が遠くなるような昔から、授ける相手を選んでうけつがれてきたものじゃ。」

タケルの草なぎの剣のように誰でもが授かるものではなく、受け継ぐべきものが手にするべきものであった。

「今宵、これを身に付けお前を(つきぬ浜)へと送り出すように、声が降りてきた。」

「お行き!何も考えなくてもよい。」

クスマヤーおばぁさんは、一気にしゃべり終えると、カナシにそれらを手渡し静かに目を閉じた。

黄昏の中で、ティダが静かにクスマヤーの皺を切り刻んだような横顔を照らす。

一瞬、クスマヤーの全身が縮こまったような感じがし、「生」が光となって天へと昇り立っていくのをカナシは感じた。

後には、クスマヤーだったものが横たわっていた。

「おばあさん」

カナシは、クスマヤーを抱きしめた。

懐かしい日なたの匂いとともに昇り立ったものの、何かが彼女の上に降り注いでくるのがわかった。

カナシは、自分の宿命(さだめ)を悟った。

嵐の日にやってきたあの若者と私は運命(さだめ)なのだ。

つきぬ浜へ。

カナシは、宵闇迫る道をひた走った。

ーつきぬ浜ー

望月(満月)は中空にかかり始めていた。

男たちは、歌を詠み、女たちが返歌する。

頃合いがとれた男女は、手に手を取り闇へと消えていく。

かがり火の火の粉は天まで届けと立ち上っていく。

タケルを狙う女たちは多かった。

タケルの歌も見事で、女たちの返歌にタケルは首を振らない。

そうこうしているうちに、座は盛り上がり宴は酣(たけなわ)になっていく。

タケルがこれが最後と歌を詠み始めた。

神々の晩餐:タケルとカナシの章。

ーモーアシビーの夜ー

タケルの体力が回復するにつれて、彼の周りには笑い声や歓声が絶えなかった。

嵐が過ぎ去った朝、波に打ち上げられたタケルを介抱したのは、長(おさ)のヒヌカンであった。

この村に、言い伝えがあった。

ある日、崇めているティダ(日)の皇子の一人が天降り海からやって来る。

その皇子は、1本の剣(つるぎ)と携えている袋の中に赤い碗や種、火を作る石、マータン(勾玉)と言われる石の首飾りを持っている。

それらすべては、ティダが民に遣わしたものであり大いに重畳(大変喜ばしい)なことであるが、引き換えに大災厄も招くこととなるとあった。

ティダの皇子に選ばれし娘は、その命と引き換えにティダの皇子の天昇りを手助けすることになるという言い伝えであった。

ヒヌカンの始祖は、琉の島に初めて降り立ったアマミキョ(女神)とシネリキョ(男神)が土の中から産みだした最初の
島人の一人と代々言われていた。

言い伝え通りの若者が、息絶え絶えに目の前にいる。

ヒヌカンの背後から彼の肩に手を当てて覗き込んでいた妻のトートームは、夫の耳元でささやいた。

「このまま、この若者を海に流しましょう。これは言い伝えのティダの皇子ではなくきっと私たちに禍(わざわい)を招く
異国人よ!」

「生かして助けたら、仲間を大勢つれてきて私たちの村は大変なことになるわ。」

ヒヌカンは、暫くの間目を閉じてまぶたの裏のビジョンに意識を集中し始めた。

長のヒヌカンは、自分の中の神に、問いかけた。

神とは、彼の血の中に蓄えられた先祖の記憶なのである。

無の中に・・・、無音の中に・・・意識が入っていく。

目の前に、紫や赤の雲のようなものが遠く近く渦巻き始めると突然視界が拓けた。

光り輝くものが彼を見据え、音もなく声を発する。

「助けよ」

ヒヌカンは、妻の言葉に応えることなく若者を彼等の住まいの苫屋(とまや)へと背負って行ったのである。

ヒヌカンがぼそりと妻のトートームに言った。

「この若者が出ていくまで、娘のカナシを山向こうのお前の里にあずけておけ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「しばらくの間、私の母親のクスマヤーの面倒を見ておくれ」

カナシは、突然母のトートームに言われ山向こうのウンナの集落へとむかった。

(海から来たあの若者はどんなひとなんだろう?)

若者が家へ担ぎ込まれたときカナシが首からさげていた「タカラガイ」が身を震わせたのだ。

カナシにとって、こんなことは初めてであった。

何か、身を裂かれるような想いがよぎったが、カジマーヤ近い祖母のクスマヤーの世話に向かった。

タケルは、順調に回復した。

偉丈夫のタケルを、女たちが見逃すはずがない。

男女が集い、掛け合いの歌を詠みながら互いの気持ちを確かめあう”モーアシビー”がちかづいていた。

ヒヌカンとトートームは”モーアシビー”に行くことをタケルに勧めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カナシが祖母クスマヤーの家に行くと、世話をしている甥っ子のガチマヤーが迎えに出てくれた。

「カナシよ、よう来た。」

「おばぁさん、母の言い付けでおばぁさんのお世話をしに来ましたよ」

クスマヤーは、神降ろしの人である。

先祖、草や岩や万物に宿る地の神の声、天上の神々の声を聴くことができるのである。

多くの人が、彼女の口寄せを頼りにやって来る。

すっかり縮んでしまい歩けなくなった祖母のクスマヤーは、丸い大きな紅い布団の様なものに納まり、紅と黄色の歯切れの様なものにくるまりガチマヤーに抱えられながら訪い人の前に姿をあらわす。

片手に、風車を持ち宙にかざすと、風もないのに風車が廻りだす。

彼女はの意識は廻る六道輪廻の世界へと引き込まれて行くのだ。

彼女の神降ろしは評判であった。

ひと月・ふた月と祖母の世話をする日々が続いた。

月齢が十三夜から十五夜へと満ちる夕暮れのことであった。

「カナシ、ここへおいで。」

「その昔、大地を作った私たちの親神さまは、3人姉妹じゃった。3人はそれぞれ手分けして、3つの地を黒い潮の海に
作った。其処に、私たちの様な人を其々おつくりになられた。」

「日の国は永久(とわ)に輝き続けるティダの世界、そして変幻万化、常に化相する我らが住む世界、陰と影が支配する寂滅の月の世界、黄泉・根の国。」

「これらが、程よく調和した時に平穏が保たれるのじゃ。」

「私の一族は、ティダの女神の一族に使えたもの。私も間もなく、そのもとへ身罷る。」

クスマヤーは、胸元から見事なタカラガイの首飾りと「太陽の巻き貝」と呼ばれるゴホウラ貝の腕輪1対をとりだした。

「これは、おばあさんのおばあさんのそのまたおばあさんと気が遠くなるような昔から、授ける相手を選んでうけつがれてきたものだよ。」

「今宵、これを身に付けお前を(つきぬ浜)へと送り出すように、声が天から降りてきた。」

「おいき!、何も考えなくてもよい。」

クスマヤーはそこまで一気にしゃべり終えると、カナシにそれらを手渡し目を閉じた。

黄昏の中で、ティダが静かにクスマヤーの皺を切り刻んだような横顔を照らす。

一瞬、クスマヤーの全身が縮こまったような感じがし、「生」が光となって天へと昇り立っていくのをカナシは感じた。

後には、セミの抜け殻のようなクスマヤーだったものが横たわっていた。

「おばあさま」

カナシは、クスマヤーを抱きしめた。

懐かしい日なたの匂いとともに、昇り立ったものの何かが彼女の上に降り注いでくるのがわかった。

カナシは、自分の(さだめ)を悟った。

つきぬ浜へ。

カナシは、宵闇迫る道をひた走った。


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